大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(く)84号 決定

抗告申立人 少年Sの法定代理人 薩川庄吉

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、法定代理人薩川庄吉作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

所論は、原決定が少年に対し中等少年院送致の処遇をしたのは著しく不当であると主張するに帰する。

そこで、一件記録を調査検討すると、原決定は、その理由において、非行事実として「少年は、昭和四五年七月から同年一一月までの間友人歌代道男(二〇才)と共謀し、大田区豊島区世田谷区目黒区杉並区などの都内城西地区、横浜市、町田、狛江、調布などの各地において、自動車合計二四台他にカメラ、ナンバープレート、コンソールボツクス、ステレオパツクなど三四件(被害総額八九〇万円余)の窃盗を敢行したものである。詳細は少年調査記録添付の犯罪一覧表参照。」と判示している。しかるに、記録中の検察官の送致書によると、審判に付すべき事由として「少年法第三条第一項第一号、司法警察員送致書追送致書(昭和四六年三月五日付)記載の犯罪事実」と記載され、右司法警察員送致書(昭和四六年二月二六日付)記載の犯罪事実は、昭和四五年一一月一日午前三時頃および同三時三〇分頃の歌代道男と共謀にかかるカメラ一台、自動車二台の窃盗二回であり、前記送致書記載の犯罪事実は、昭和四五年七月三一日午後一一時三〇分頃から同年一一月一九日午前二時三〇分頃までの間の前記歌代と共謀にかかる自動車一三台、現金六〇〇円位、コンソールボツクス、ナンバープレート、フエンダーミラー、自動車用置時計、ミユージツクテープ等四五点位の窃盗一八回であつて、以上合計二〇回の窃盗(被害額合計六六三万五九〇〇円位)の外に少年が罪を犯したことを認めるに足る証拠資料は記録中に存しない。これを原決定書記載の前記非行事実と比較すれば、かなりの相違がある。このような違いを生じたのは、原決定書が引用する少年調査記録添付の犯罪一覧表は、前掲司法警察員の送致書および追送致書記載の各犯罪事実を複写したものの外に、余罪一覧表一通(番号1から15までの分)を編綴しているところ、右余罪一覧表記載の犯罪事実はすべて追送致書記載の犯罪事実(番号1から18までの一覧表)に包含されているものであつて、もともとこれを編綴すべきではないのに、これを誤つて重複して非行事実としたことが主な原因であると思われる。このことと審判調書に裁判官は検察官の送致書指示の犯罪事実を読みきかせた旨記載されていることとを併せ考えると、原決定は前掲司法警察員の送致書および追送致書記載の合計二〇回の窃盗事実を示すべきところを誤記したものとみられなくもない。また、少年が右二〇回の窃盗を犯した事実は明らかであり、少年保護事件において如何なる保護処分を選ぶかを考慮するにあたつて、犯罪事実よりむしろ要保護性が重視されることも否定できない。しかし、少年法第三条第一項各号所定の事由、本件では同項第一号の罪を犯したことは、保護処分の前提要件をなすものであるのみならず、犯罪の性質、態様、殊に本件のような窃盗の場合その回数や被害の多寡は、少年の資質性行や環境など要保護性の判断にも関係があり、ひいては保護処分の選択にも影響を及ぼすといわなければならない。原決定書の記載は、これを単なる誤記として見すごすことはできず、窃盗の回数被害数量に関する前記のような誤りは、ひいて本件保護処分の著しい不当を来しているものと認めざるを得ない。論旨は結局理由がある。

よつて、少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条により、原決定を取り消し、本件を東京家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 江碕太郎 判事 龍岡資久 判事 桑田連平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例